第3章 聖なる夜に ☆*:.。. 徳川家康 .。.:*☆
「この年の瀬に上杉の忍びが何の用?」
「京から越後へ戻る途中に怜さんの顔を見に寄った次第です。これはほんのささやかな京土産です」
そう言って佐助は家康に向かって恭しく菓子箱を差し出した。
「…何これ?」
「きな粉餅です。京で評判の菓子屋で買い求めてきました」
「……ふ〜ん、一応貰っとく。怜、俺、今夜は信長様に呼ばれてるんだ。御殿に戻るの遅くなるから先に休んでて。それだけ言いに来た」
「そう…お仕事お疲れさま。無理しないでね、家康」
年の瀬が近付き、家康も何かと忙しいらしく夜遅くまで御殿に帰って来ない日が続いており、私達は最近すれ違いの日々を過ごしていた。
(寂しいけどお仕事なら仕方がないよね。クリスマスには二人でゆっくり過ごせるといいんだけど…)
仕方がないとは分かっていても寂しい気持ちが湧き上がってきてしまい、怜は慌てて顔を伏せ俯いた。
「っ…怜…?」
そんな怜の様子に些かの訝しさを覚えながらも、佐助がいたこともあって家康はその場で深く問い詰めることもできなかったのだった。
佐助と別れ、家康の御殿に戻ってきてからも私はクリスマスの催しのことを考えていた。
「料理は政宗に相談するとして、クリスマスといえばプレゼントだよね。家康へのプレゼント…何がいいかな」
何か作りたいとは思うが、着物や羽織など手の込んだものを縫うのはさすがに今からでは間に合わないだろう。
それでも愛しい恋人に手作りのものを贈りたい気持ちは強く、家康の喜ぶ顔を思い浮かべる。
(小物なら作れるかな。それでもサプライズにするなら家康に分からないように作らないといけないから作業できる時間は限られてるよね。今夜みたいに家康の帰りが遅くなる日にやらないと…)
そうと決まれば善は急げだと、裁縫道具に手を伸ばす。
愛しい人のいない部屋はシンっと静まり返って少し寂しくもあったけど、現代で見た美しく煌めくイルミネーションの輝きを思い浮かべながら、その夜、私は家康への贈り物の準備を進めていったのだった。