第2章 貴方と過ごす特別な日 ☆*:.。.伊達政宗.。.:*☆
翌日、政宗は家康とともに上杉軍に総攻撃を仕掛けた。
怒涛のように攻め掛かる伊達軍の勢いに上杉軍は浮き足立って敗走し始め、昨日までの膠着状態が嘘のように呆気なく勝負は着いた。
「はっ、終わってみれば他愛もなかったな」
「政宗さんが容赦なさ過ぎなんですよ。早く終わらせたいのが見え見えでしたよ」
自軍の兵を指揮し帰陣の準備にかかりながら、家康は呆れたように言う。
「付き合わされるこっちの身にもなって欲しいですね」
「まぁ、そう言うな。家康、お前も今宵は楽しみだろ?」
今宵は怜が政宗の誕生日の祝いを準備して帰陣を待ってくれているのだ。楽しみでないはずがない。
「……仕方ないから祝ってあげますよ、政宗さん」
渋々といった口調で言いながらも、家康の表情はどことなく柔らかく口の端には微かな笑みが浮かぶ。
「俺を祝いたいなら素直にそう言えよ」
「ちょっと…止めて下さい、俺に絡むのは」
戦に勝利した高揚と解放感からか、二人ともに自然と口調も緩み、軽口が飛び出す。
それは兵達もまた同様で、彼方此方で楽しげで賑やかな笑い声が聞こえていた。
「今宵は政宗様の誕生祝いの宴が催されるそうだ。いやぁ、楽しみだなぁ。戦にも勝って、これ以上ないほどの祝いだな!」
「怜様が色々とご準備なさっているらしいぞ。早く陣へ戻りたいものだ」
「おぅ!我らもお手伝いせねばなぁ!」
政宗に絡まれながらも兵達の楽しげな会話を聞いていた家康は、苦笑いを浮かべる。
「ほんと、戦場で誕生日祝いをやるなんて破茶滅茶なことを考え付くのは政宗さん達ぐらいですよね」
「退屈しなくていいだろ?一年に一度、怜が俺を祝ってくれるのに場所なんて関係ない。あいつが傍にいれば、それが俺にとっての特別な場所になるってことだ」
「はいはい…惚気はそれぐらいにしといて下さいよ。一応、ここはまだ戦場なんですからね」
呆れ顔の家康をその場に置いて、政宗もまた足早に帰陣の準備に向かう。
思うのは愛しい女の、花が綻ぶような笑顔だ。
怜と出逢うまで、己の生まれた日に特別な感情を抱くことなどなかったが、今は違う。
他愛ない一日が楽しみで心が騒ぐ…生きていてよかったと思うのは、彼女が隣にいるからだ。
(怜っ…早くお前に逢いたい)