第2章 貴方と過ごす特別な日 ☆*:.。.伊達政宗.。.:*☆
数日後、私達は戦場にいた。
織田の支城を攻め落とさんと布陣していた上杉軍を、伊達、徳川連合軍は密かに背後から囲うように陣を敷いていた。
支城を守る大名は織田家の家臣ではあったが戦には不慣れな様子で、積極的に撃って出る気はないようで、政宗と家康の援軍を頼りにして早々に籠城を決めて、のらりくらりと戦況を見ているらしかった。
この地に布陣して数日経つが、上杉軍とは小さな小競り合いはあれど決定的な衝突は見られなかった。
上杉軍の方も、此度の支城攻めが上杉謙信の意向ではなく独断でなされたものであることから、集められた兵の士気はさほど高くはなく、城攻めでも攻めあぐねているようだった。
互いに牽制し合ったまま、ずるずると時だけが過ぎていた。
(政宗はすぐに終わる戦だって言ってたけど…このまま大きな進展がないままだと長引いてしまうのかな…)
明日はもう政宗の誕生日だった。
(戦は時の運だ。今日明日、何が起こるかなんて誰にも予想はできない。陣中とはいえ、誕生日当日は政宗に穏やかな心持ちで過ごして欲しいと思ってたけど…私の願いが叶う保証なんてどこにもない。
ああ、神様…どうか、一刻も早くこの戦が終わりますように…
政宗が…今日も無事に帰ってきますように…)
救護用の天幕から出て空を見上げていると、馬の嘶きと複数の人の足音、甲冑が揺れるガチャガチャという派手な金属音に、ハッと我に返って音の聞こえる方へと意識を集中させた。
「怜、戻ったぞ」
人馬の喧騒を物ともしない力強い足音と堂々とした声の響きに、一瞬にして愛しい人の姿を瞼に思い浮かべた私は、これ以上なく顔を綻ばせて振り向いた。
「政宗っ!お帰りなさい」
駆け寄って抱き着きたい衝動に駆られたが、政宗の背後に控える家臣達の姿が目線の端に過り、さすがに人目を憚って自制する。
だが、知らず知らずのうちに気持ちが溢れてしまっていたのだろうか、ゆっくりとこちらへ歩いて来る政宗を前にしてモジモジと視線を逸らせる私に気付かぬ政宗ではなかった。
「…来いよ。何、遠慮してるんだ?お前らしくないな」
両手を大きく広げて私を誘い、余裕たっぷりに微笑む政宗を見てすぐさまキュンっと胸が高鳴ってしまい、誘われるままにその逞しい腕の中へと飛び込んでいた。