桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第2章 記憶の中の君に会いたい【冨岡義勇】
「あ、いや…!その、え…。」
「少しは体を動かした方が治りも早いのです。」
ゆっくりと立ち上がらせてくれるとお台所に連れて行かれるが、義勇さんの好物って言われても鮭大根しか思い浮かばない。
しかし他に好きなものがあるかもしれない。こんなことであれば聞いておけば良かった。
(……鮭大根?え?何故私はそんなこと知ってるのだろうか。)
義勇さんから聞いたことなどない。もちろんしのぶさんも先ほど好物を作ろうと言っただけで鮭大根という言葉は出していない。
ーズキン
頭が痛い。中から何かが湧き上がって溢れ出しそうだ。呼吸が苦しい。
ーズキンズキン
脳裏に浮かぶのは黒髪の少年。表情の変化は少ないけど優しくていつも私を助けてくれた。
"あなたは誰?"
何てひどい女なのだ。忘れることなんて絶対許されない。
あなたは大切な大切な幼馴染。
「…義勇…。ごめんね。」
前を歩くしのぶさんの肩に倒れるように掴まると呼吸を整える。
「え?だ、大丈夫ですか?!部屋に戻りましょう…?!」
驚いているしのぶさんににこりと微笑むと首を振る。
彼のことを思い出すと同時に鬼に襲われた時のことも鮮明に思い出された。
怖いはずなのにそれを上回るほどに彼が私に与えてくれた優しさが嬉しくて涙が出そうなほど幸せだと感じた。
「…しのぶさん、義勇に会いたいです。どこに行けば会えますか?」
彼の呼び名の変化からすぐに事の次第を理解してくれたのか微笑んで場所を教えてくれた。
そこまで遠くはないけど、道中はカナヲさんが付き添ってくれる。
理由があった方が行きやすいだろうということで義勇に渡してほしいと手紙も預かった。
この数ヶ月、ほぼ毎日お見舞いに来てくれた彼。
今度は私が会いに行く。
まだ思うように動かない体をカナヲさんに支えてもらいながら彼の顔を思い浮かべて足を動かした。