桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第2章 記憶の中の君に会いたい【冨岡義勇】
「あの、あそこの花が見たいです。」
気を遣ってくれたのだろうか。
彼女の要求は何とも小さく容易いもの。指で示してくれる場所に向かう。
今気づいたが、俺は一体何をしているのだろうか。
彼女とは幼馴染ではあるが、年頃の女を何度も訪ね、挙げ句の果て抱き上げるとは。
そんな自分の暴挙にも優しい顔を向けてくれる彼女には感謝しかない。自分のことを覚えていないのに。
ニコニコと笑顔で答えてくれる彼女に途端に自分の欲求に付き合わせている気分になり申し訳なさが募っていく。
そして止まらない動悸がこれ以上彼女と親しくなることに警鐘を鳴らしていた。
***
「最近、冨岡さん来ませんね。」
「…そう、ですね。」
私が鬼に襲われた時に助けてくれた冨岡義勇さん。
彼が言うには私と幼馴染だという。
鬼に襲われた衝撃で記憶を無くしてしまったので全く覚えていない。
ただ知らない筈なのに温かくて懐かしい雰囲気の義勇さんとは一緒にいるととても落ち着く。だから彼との時間はとても好きだった。嘘をつくようなタイプにも見えないし、幼馴染というのは本当なのだと思う。
しかし、ここ一週間ぱたりと会いに来てくれなくなっていた。
考えられるのは最後会った日に庭のお散歩。あんな風に驚いてしまったから嫌な想いをさせたのだろうか。
「…義勇さん、会いたいな。」
「ふふふっ。」
薬を持ってきてくれていたしのぶさんが品よく笑うと体を起こしてくれた。
「少しずつ立つ練習もしているし、今日は休憩しながらお料理でもしませんか?」
「え、…?お、お料理?」
「そうです。冨岡さんの好物でも作りましょう。あとは私が呼んであげますから。」
しのぶさんの提案に顔が熱くなる。
これではまるで私が義勇さんに恋して、彼が来るのを待ち焦がれているようではないか。何という醜態を晒してしまったのだ。