桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第13章 君との合図【トラファルガー・ロー】
未だに心臓は煩い。口から飛び出そうとはよく言ったものだ。まさに今自分がその状態だとは何と滑稽なことだろうか。
教師なのにアイツに何を教えた?
教えられたのは自分だろう。
(…お前が、好きだ。)
生徒を好きになるなんて許されない。
だが、それが事実だ。1年半、アイツは想い続けてくれた。高校生活という貴重な青春を自分に捧げたのだ。
だったらアイツが捧げてくれたその時間を超えるこれからの自分の人生をアイツにくれてやろう。"いらない"と言われてももう遅い。
だから…
「頼む、無事でいてくれ…!」
家か教務主任室しか選択肢がなかった自分にはアイツがどこに行くかなんて分かるわけがない。だが、何故か自分の家の近くにいそうな気がした。虫の知らせだろうか。
雨の日に猛スピードで制限速度を無視して自分のマンションまで来ると通り過ぎた公園に見たことのある制服が見えた気がした。
見間違いだろうか?それでも車を駐車すると走って先ほどの場所に向かった。
(…見つけた。)
公園のブランコで捨てられた仔犬みたいにずぶ濡れの彼女が微動だにせずに座っていた。
こちらの足音に気付くことなくボーッと生気のない瞳で一点を見つめている。
静かに近づき、傘の中に入れてやると、ゆっくりと見上げたその瞳には見る見るうちに涙が溜まっていった。
「…っ、せ、んせ…。ダメなん、です…」
「…何が。」
「先生のことだいすきでだいすきでたまらないんです…」
「…そうか。」
「先生のこと好きじゃなくなったらもう生きていないも同然です…!」
気の利いた言葉を言ってやりたいがそれよりも先に体が動いた。
腕を引いて抱きしめた体はどれほどこの雨の中いたのだろうか?すっかり冷え切ってしまっていて夢中で抱きしめた。
泣き噦る彼女に大人の男としてけじめをつけなければならないのに、10代の女子が喜ぶような気の利いた台詞など何も頭に思い浮かばない。
思い浮かぶのはたった3文字。
「…好きだ。」
「……え?」
「…オレもが好きだ。」