桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第13章 君との合図【トラファルガー・ロー】
ふと教務主任室の時計を見ると時刻は17時を過ぎている。
(…合図が分からなかったのか?)
それならば仕方ない。アイツとは連絡先の交換はしていない。卒業するまでアイツと深い付き合いはできない。
"あと少しの我慢だ"と自分に言い聞かせた。
アイツもそうだと思っていた。それなのに次の日もその次の日も…あの日から二度とアイツは来なかった。
送る合図は教務主任室のときも家の時もあったがいくら待っても彼女が現れることはなかった。
生徒に手を出すなんて最低な行為だ。もし自分のことを嫌いになったのであれば仕方ない。
むしろ良かったのではないか。彼女には未来がある。8歳も年齢が離れた自分なんかに貴重な青春時代を捧げることはない。
しかし、その1週間後にたまたま残業をしていると22時過ぎに職員室の電話が鳴った。
こんな時間に電話が鳴ることなどない。驚いたが緊急かもしれないと思い、受話器を取る。
「はい、…」
「あ、あの!すみません!娘が帰って来なくて…!バイト先から来てないって連絡もあって…!」
どうやら保護者のようだが随分焦っている。要するにバイトがあるのに出勤もしていない、家にも帰って来ないと言うことだろう。名前も言わなかったのでもう一度聞き直すと背筋が凍りつき、心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥ることになろうとは誰が考えつくのだ。
バクバクと鼓動が煩い。冷や汗が流れ出る。
「…あ、あの、せ、先生?」
母親の声で覚醒するが、うまく思考が回らない。しかし、居てもたってもいられない。早くこの場所から動き出さなければ、早く見つけなければ、と焦燥感だけが突き動かした。
「…担任のトラファルガーです。すぐに探しに行きます。お母さんは家で待機していてください。携帯番号を教えて頂けますか。見つかれば連絡します。」
何とか震える手で番号を書き写すとそれを持ち、パソコンの電源を落として全速力で車に向かった。外は冷たい雨が降り仕切っている。