桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第12章 いつか来る終息へ【トラファルガー・ロー】
まさかの待ち望んでいた彼からの連絡に荒んでいた心が躍る。大切に持ち上げたスマホの通話ボタンを押すと愛おしい声が聞こえてきた。
「お前な、デカい声で叫ぶな。近所迷惑だぞ。」
「え…?」
何故自分が叫んでいたことを知っているのだろう。ひょっとしてローの脳に直接届かせる能力でも身に付けたのだろうかと通常ならば思う筈がないファンタジーな考えが過るのはストレスせいだと思いたい。
「窓開けろ。」
だが、ローから発せられたその一言でたった数歩の距離の窓に向かって飛び付き開け放つ。
白い息が吐き出される程、冷たい空気が部屋の中に入ってくるが、見下ろした先にいたのは愛おしい彼の姿。
スマホを握りしめたまま"本物…?"と呟いてしまうほど夢にまで出てきたその姿に胸が暑くなる。
「おい、お前はオレの顔を忘れたのか?薄情な奴だ。」
「ち、ちが!違うよ…!だ、だって、久しぶり…で…」
こんな言い方をしたらローを責めているように思うだろうか。彼は日夜この世界的規模のパンデミックに立ち向かっているというのに。何を言っても語彙力のない私は気の利いた一言を言えない気がして黙りこくるしかない。
だけど久しぶりに見た彼はやはりカッコよくて忙殺されている筈なのに元気そうで安心した。
「…オレだって限界だった。」
「え…?」
「それと…どうしても直接伝えたかった。」
よく見ると彼の手は医療用のグローブをはめられていて、まるでオペの前のようだった。
そしてそのまま後ろに停められた車の中から取り出されたのは美しい花束だった。
「卒業おめでとう。」
それは黄色のガーベラで埋め尽くされていて彼が持っていても大きな花束。まさかこの花束を渡すためだけにここに来てくれたのだろうか。