桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第11章 涙の意味【トラファルガー・ロー】
今日一日散々だ。
何で誕生日が今日なのだろうか。忙しい彼が折角取ってくれたお休みを無駄にさせてしまった。
私のために取ってくれたと言うのに、仕事すら満足に終わらせられなくて遅刻までするなんて…。
会えると思って嬉しかった気持ちは萎んでいき、デートのために着てきたお気に入りのワンピースには耐えきれなくなった涙がシミを作った。もうHPは虫の息だろう。
彼に少し遅れる旨の連絡をすると"待ってる"とだけ返事が来る。手の甲で涙を拭うと乾き切らない涙目のまま足早に会社を出る。
駅までは徒歩5分で乗り換えをして10分で…頭の中にはどう考えても18時には間に合わないのに経路案内が無数に浮かび上がる。
この頭の回転の速さを仕事でも活かせれば遅刻などしなかったであろう。
だが、駅に向かって歩き出そうとした時、腕を掴まれた。温かい手の感触がそこからジワリと広がっていく。ふわりと香るのはを私の大好きな香水の匂い。それが誰なのか振り向かずとも分かる。
「…ろ、ロー…?」
「おい、何泣いてんだ。まさか誰かにセクハラでもされたんじゃねェだろうな?」
「え、…あ、」
「どこのどいつだ。メスで切り刻んでやる。」
「…へ、ん?えええ?!ち、ちが!さ、されてない!されてないです…!!」
自分が泣いていたせいだが、とんでもない勘違いをして会社に乗り込もうとする彼の腕を今度は私が掴んだ。
「あ?なら…何故泣いてる。」
「…ローのこと待たせてしまったのが情けなくて…」
「…は?」
人が"泣く"と言う行為には様々な感情が関わっている。今回の私は間違いなく自分に対してやる不甲斐なさによるものだ。誰かに対して負の感情を抱いたことによる涙ではない。
「…早く帰りたかった、のに…仕事失敗して残業になっちゃったの…ごめんなさい。」
早い段階で割り切って仕事をしていれば防げたミスをウダウダといじけて、結果として仕事に支障をきたしたのは他でもない自分の責任だ。
それなのに目の前にいる彼はそんな私を見て優しく微笑むと頭をぽんっと撫でてくれた。