桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第10章 アホの集合体【トラファルガー・ロー】
「ふーん…別にいいもん。アホで。唐揚げの恨みは深いんだから。」
「お前が先にオレのアジフライを食ったんだろうが。よく言うな。アホ。」
「ご馳走様でしたー。ふーんだ。」
このまま彼と口喧嘩をしたところで返り討ちになること間違いないので、そそくさと退散することにした。
頭のいい彼に打ち負かされるのはいつものことだが、彼とのテンポの良い会話は楽しいし、無遠慮に話せることが私の中でかなりステータスだったのでこれを失うのはとても怖かった。言い合いは出来るが、大きな喧嘩はしたことはない。
休憩は順番に行く為、まだ行っていない同僚に声をかける。昼休憩中は仕事中と違い、外来も病棟もこの医事課も静かな空気が流れている。
自分のデスクに座り、午後の仕事を始めようとすると再び電話が鳴った。
先ほどローに話したことでスッカリ朝のことを忘れていた私は何の迷いもなく2コールで出る。
「はい。国立コラソン高度医療センター医事課でございます。」
「…………。」
この無言で今度はすぐにピンと来た。誰かに代わってもらおうにも疎らなこの室内に助けを求めることは難しく、受話器を耳に付けたまま目を泳がせることしかできない。
「…ああ、さっきの子…?かわいい、こえ、だね?あと、ちょっとでイ、ける、から…」
「え、あ、…し、失礼します!」
咄嗟に電話をそのまま切ってしまった。どんな電話にも丁寧な対応をしなければいけない。もちろんこんな電話にする必要などないが、それでもSNSが普及している今、風評被害は致命的なダメージを受けることがあると言うのに。
"やってしまった"と項垂れているとすぐに再び電話が鳴り、その音に今度はビクッと震えてしまった。
(…ま、また…?)
2コール以内に取らなければならないのに、そんなことすら忘れて茫然としてしまった。
それでも震える手で受話器を再び取って、定型分の挨拶をすると、やはり同じような無言からの荒々しい呼吸音。
切ってしまおうかと思った瞬間急に右手が軽くなった。