桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第9章 理解不能【H×H イルミ・ゾルディック】
何故分かってくれないのか。
そもそも彼と付き合うきっかけとなったのは、私に交際を迫っていた男がたまたま彼の暗殺のターゲットだった。
部屋に連れ込まれそうになったところを助けられた。
あまりに一瞬で綺麗な黒髪が靡いたと思うと、既に男の息の根を止めていた。
その時はただターゲットを暗殺する為だとは思うが、恐怖で固まっていた私を足がつくとまずいと思い、ゾルディック家へ連れて来られたのが彼との交際に発展した。
「…もう、いい‼︎イルミと付き合ってたら私、どんどん友達もいなくなっちゃうし、普通の生活できないじゃん‼︎」
彼の表情は変わらないけど、少しだけ空気が変わったような気がしたのは気付かないフリをしよう。
折角デートの予定だったが、最早そんな気分ではない。
あまりの空気の悪さに居た堪れなくなり、彼の制止も聞かずに私は全速力で走り出していた。
***
「…あれ?し、しまった。ここ、どこだ?」
頭に血が昇っていたとは言え、なり振り構わず走った挙句に迷うなんてどんな醜態だ。
キョロキョロと辺りを見渡すも見覚えのない地名に見たこともない建物。
見たこともない可愛い雑貨屋さんもいつもならテンションが上がるのにイルミに喧嘩をふっかけて向こう見ずに全力疾走してきた為、体力とメンタルの消耗が激しい。
身に纏っているのは彼とのデートのために新調したワンピースとパンプス。
彼に見てもらいたかっただけなのに雑貨屋さんのガラスに映る自分の姿が虚しさを醸し出している。
ため息をつき下を向くと自分の影に誰かの影が重なった。
「…っ、イルミ…?!」
何故彼だと思ったのだろうか。
彼は暗殺一家。"来るものは拒まず、去るものは殺す"はず。
後者であれば私は殺されるという選択肢しかないのに、能天気な私は迎えに来てくれたのではないか?と思った。