桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第7章 悲しみの先は【トラファルガー・ロー】
「レントゲンで肋骨に骨折が二箇所見つかった。後ろからの衝撃がないと折れないところだ。…この痣は?」
先生の声に咄嗟に服を下ろして、椅子ごと離れた。
だめ。ダメ。駄目。絶対に駄目。
バレたら怒られる。
バレたらまた殴られる。
震える手で検査着を掴んで先生の視線から逃れる。
「や、ちが、違うんです。階段から落ちてしまって…!」
「階段で落ちた衝撃であればこんな骨折にはならない。」
「そ、そんなの分からないじゃないですか…‼︎」
「それならその身体中の痣はどう説明する。」
次から次へとこちらの言い訳を潰していく目の前の先生に唇を噛み締める。
だめ、ダメだって。駄目だってば。
これ以上、入ってこないで。
「…医者としての見解を述べるのであれば今すぐ警察に届けなければならない。」
「け、っ、けいさつ?!」
警察というワードに全身の血の気が引いていく。
そんな大ごとにしたいわけではない。
警察に言ったら夫はどうなるのだ。
この時の私は本当に色々麻痺をしていたのだろう。
咄嗟にこの時、夫を庇わなければと思ってしまった。
「これは犯罪だ。あんたが我慢するような問題じゃァねェよ。」
「ち、違うんです…!違うの…!本当に…!階段から…」
体の震えは止まらない。
先生の瞳が怖い。まるで私を丸裸にしていくように射抜かれるその視線が怖い。
「…落ち着け。オレだ。分からないか?子どもの頃、近所に住んでいた。」
自分の前に跪くと目線を合わせてくれる。
怖がらせないように触れることはないが、その発言からもう一度ネームホルダーを見ると彼の視線を自ら絡ませた。
"トラファルガー・ロー"
忘れる筈がないその名前。子どもの頃、仲の良かった幼馴染みと同じ名前。
ネームホルダーと彼の顔を交互にぎこちなく何度見ると面影があるような気がした。