桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第24章 桜舞い散る君想ふ【宇髄天元】※
翌朝、起きると腕の中に抱いて寝た筈のは忽然と姿を消していた。
その瞬間、俺は頭が真っ白になった。
ああ、そうか。
アイツはこの行為が…
(…流されただけって言いたいわけね。)
変わらない関係性。
変わりたかったのは俺だけ。
こんなことがあったとしても俺たちは大人の関係性を続けた。
会えば話すしいつも通りの俺たち。
から「天元、ごはん食べよ?奢ってね!」なんて軽口を叩いてくることもあった。
それでも暗黙のルールであの夜のことはどちらも話すことはなかった。
あの行為はただの気の迷い。
俺たちの関係性に必要のないことなのだろう。
何とも虚しい行為だった。
だけど、いつだって人間は後悔をする生き物だ。
あの時、ああしていれば…こうしていれば…なんて考えると少しだけ未来を想像することができる。
を嫁にしたならば俺は満ち足りていたかもしれないが、アイツはきっと納得していなかっただろう。
その想いを知ったのは無惨との最終決戦の後、冷たくなったと輝利哉様に彼女の遺書を見せてもらった時だった。
全身に夥しい傷の数々。血まみれの体はあの抱いた日の温かさはない。
どれほどの激しい戦闘だったのか体中に残るそれらが物語っている。
柱を引退して輝利哉様の護衛の任についていた俺には想像することしかできない。
だが、その顔は満足そうに微笑んでいるように見えて、幸いなことに美しい顔はそのまま。
「…お疲れさん…。」
もう『天元!』と笑顔を向けてくれることはない。
共にメシを食うこともない。
笑い合うこともふざけ合うことも
…抱くこともできない。
隻腕になっても女一人を抱えることなど造作もないこと。
俺は横たわるの背中に腕を入れてその細い体を力一杯抱きしめた。
多大なる犠牲を払って無惨を倒した。
だけじゃない。
何人もの柱仲間が命を落としたのだから。
だが、を失った喪失感は仲間を失ったそれではない別の悲しさが頭の中を埋め尽くした。
「…早ェ、よ…馬鹿野郎…」
愛おしい女
嫁にしたかった女を守れなかった。
違う、馬鹿野郎は…俺だ。