桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第24章 桜舞い散る君想ふ【宇髄天元】※
──ドクンドクン
あー、まただ。
そこまで恥ずかしがらなくてもいいのによ。
ドクンドクンと早鐘する心臓の音に口角が緩む。
顔を背けるが何とも可愛らしいが、髪は顔から首にくっ付き、隊服も雨が滴り、ぽたりと音も垂らしている。
「ほら、早く薪になるモン拾えって。」
「わーかってるーー!!もう!!」
ぷりぷりと怒りながらも言う通りに焚き火に必要な燃料となる物を集め出した。
薄暗い洞窟の中だが、目が慣れてきて随分としっかりとの顔が見えることで俺はその顔をまじまじと見入った。
その時、俺は初めての感情を覚えたのだ。
(…あれ…?アイツ…、あんなに細かったっけ?)
見慣れたはずの。
隊服が濡れて、ぺたりと体の線を浮き出しているせいでいつもより鮮明に見えるそれ。
よく見れば腰回りは折れそうなほどに細く、胸元は突き出んばかりに豊満だ。
(…あんなに…まつ毛長かったのか。)
気がついたら少しずつに近寄っている自分がいた。
もちろん名目上は焚き火の薪集めではあるが、もっと近くで見たいと無意識に思っていたのかもしれない。
数本の枝のみを持ち、ふらふらと近寄る俺に気付くと眉間に皺を寄せたと目があった。
「…なに?ちゃんとやってるわよ。」
「え…あ、ああ…。よ、よーし。しっかり集めろよ!」
「命令しないでよ。全く…はい!持ってて!」
そうやって渡された木の枝を受け止めると慌てて踵を返し、地面に目線を彷徨わせる。
枝を探すためじゃない。
完全にその行動の意図が分からなくて動揺したからだ。
吸い寄せられるようにに近づいてしまったが、何が目的だったのか?
わけがわからなかった。
自分で自分の行動の意味がわからなかったのだ。
こんなことは初めてのこと。
それ故、あまりの衝撃に自嘲気味に笑うしかなかった。
「ちょっと!私にやらせてサボらないでよね!」
「…わーぁってるわ。」
唯一、平静を装うことができた理由はがいつもと変わらなかったということだった。