桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第20章 Reincarnation【宇髄天元】
本当ならばその手を掴み上げて駅員に突き出してやるのが筋なのだろうが、生憎そんな度胸もなければ、今は二日酔いのせいで何もしたくない。
もういいや…。あと10分程度我慢すればいいだけのこと。
早々に諦めて、弄られるがまま耐えていると聴き覚えのある声が降ってきた。
「…おい、ジジイ。騒がれたくなかったら次の駅で降りな。」
其処にいたのは昨日の変な人、基、宇髄天元さん。朝でも相変わらずイケメンだ…と思う間もなく、お尻の違和感から解放されると私の腰を抱き寄せて痴漢から遠ざけてくれた。
まさか同じ電車に乗っていて
まさか助けてくれるなんて思わなかった。
あんな風に逃げてしまったのに。
背の高い彼を見上げてみると優しい笑顔を向けてくれて何故か鼻がツンとした。
(…あれ?何で…?)
昨日初めて話しただけだと言うのに、私の心は感じたことのない安心感に包まれていて、勝手に涙が込み上げてきた。
昨日初めて話しただけだと言うのに、私の心は勝手に彼を求めているようで吸い寄せられるように彼の胸に頭を寄せた。
昨日初めて話しただけだと言うのに、その胸の鼓動が酷く懐かしく感じたのは何故なの?
頭に浮かんだ考えを何とか整理しようとしてみるが、駅に着いてしまったことで痴漢を引き渡すため体を支えてもらいながら車両の外に出る。
何も発することのできない私の代わりに宇髄さんが全部話してくれて、痴漢は引き渡された。
でも、それと同時に急に襲ってきた眩暈になす術なく私は意識を手放した。