桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第19章 日傘の贈り物【宇髄天元】※完結しました。10/19
移りゆく季節で景色は変わった。
しかし、変わったのはそれだけじゃない。
私の心模様まで様変わりしたせいで見慣れた景色がモノクロに見えてしまう。
スマホのカバーの中に入れ込んだ其れを取り出してみると何度も何度も開いたり閉じたりしているせいで紙はヨレてしまい、字も少し滲んでしまっていた。
もう暫くすればその字は読めなくなり、紙も破れてしまうだろう。
「…こうやって…失恋も風化していくんだろうなぁ…」
「誰に失恋したんだよ。」
「………え?!」
突然降ってきた声に驚き、振り返ってみれば不機嫌そうな宇髄さんが其処にいた。
日傘を差していたせいで視界はいつもよりも遮られていたのは間違いないが、時間的に彼が此処にいるのはおかしい。
「な、何で…此処に?」
「仕事で早く行かないといけなくて一本早い電車に乗ろうと思ったら見覚えのある日傘が見えた。」
「あぁ…そう、なんですね。お、おはようございます。」
咄嗟に手に持っていたメモを後ろ手に隠すと引き攣った笑顔を彼に向けた。
避けていたのはバレているだろう。あまりに気まずくて二の句が告げずにいると宇髄さんが後ろに隠していた手を優しく掴んだ。
「…これは?何で連絡くれねぇの。」
「あ、え、っと…。」
掴まれてる手は痛くない。それよりも視線が痛い。『逃がさない』と目で訴えかけてくる宇髄さんに何も言い返せない。
「待ってたんだけど?お前から連絡くるの。」
「そ、それは…あの…」
「しかも、失恋って何だよ。お前、好きな男いたのか?」
「え、あ、いや…えと…」
「ま、いたとしても関係ねぇけど。俺はもうお前に本気だから。そんな男のこと俺が忘れさせてやる。」
「や、あの…」
「お前みたいないい女をフっちまう大馬鹿野郎なんかよりも大事にするって約束する。だから…」
「ちょぉーーーっと待ってください!!!」
あまりに突然の愛の告白に私の顔は熱くてたまらない。日差しの暑さを避けるために日傘を差しているのに何の意味もないではないか。
しかし、食い気味に話していた宇髄さんの勢いが漸く止まったことで私は言葉を探した。
だって今の状況は私にとって嬉しい誤算であることに間違い無いのだから。