桜舞い散る君想ふ【ONE PIECE/鬼滅の刃等短編集】
第19章 日傘の贈り物【宇髄天元】※完結しました。10/19
言葉は少ない。
そのかわり空を見上げて暫く花火を眺めていた。
掴まれていた手は彼に握られたまま。
熱帯夜の筈なのに、お互い汗ばんでいると言うのにどちらとも離そうとしなかった。
花火大会の時間は約一時間。
私たちは碌に話すこともなく、お酒を飲みながら花火を見続けた。
終わりが近づいていくと花火はどんどんと賑やか且つ華やかになっていく。
空は益々美しくなると言うのに私の心は沈んでいく。
(…あー…もうすぐ終わっちゃうんだ。)
そう思うと悲しくて寂しくて、このまま一生終わらないでと思う。
それでも時間は全ての人に平等に進んでいくもの。
大きな音を立てて最後の花火の火の粉が暗闇に溶けていくのを見届けると、ベランダに置いてあるテーブルの上に置いてあるお酒はすっかり温くなってしまって、滴り落ちた水滴が水溜りを作っていた。
「………」
「………」
「………」
「………お湯沸かせる?」
無言が続いていたと言うのに先に声をかけてくれたのは宇髄さんだった。
しかし、発せられた言葉は"お湯が沸かせる"かどうかということ。
「え?お、お風呂ですか?」
つい今までベランダで汗掻きながら花火を見ていたのだからひとっ風呂浴びたいのかと思ったら、「はぁ?」と呆れたような顔をした宇髄さん。どうやらそう言うわけではなさそうだ。
「ちげぇわ。カップラーメン食おーぜ。新作のヤツ買ったからさ。お前にも分けてやろう。ハハッ」
そう言うとつまみが入っていた方の袋を開けて二つカップラーメンを取り出してくれた。
ひょっとしたらそれは彼の食糧だったのではないか?申し訳ないとは思いつつ、意気揚々と外側の透明なフィルムを剥がすと蓋を開けて粉末スープを入れ始める彼は何とも楽しげだ。
一時間ぶりに部屋に入るとエアコンの冷たい空気が全身を冷やしてくれて気持ちいい。私はキッチンに着くと電気ポットに水を入れて電源を入れる。
今の家電は本当にハイテクだ。
すぐに熱々のお湯が沸くなんていう代物は大昔は考えられなかったことだろう。
テーブルの準備をしてコップに麦茶を入れている間に、もう沸いてしまったそれを持って宇髄さんの下に戻ると彼がお湯をカップラーメンに注いでくれる。