第1章 憎い敵・・・でも、好き【赤頭巾】
「あ、あんた・・・、その傷・・・!」
つい、いつもの口調に戻ってしまった
そんなことより、彼の背中の傷が・・・引っ掻かれたような跡がシャツに残っていてそこから血が滲んでいる。俺が朝のうちに切れるような物や武器になりそうなのは隠しておいた。・・・ということは・・・、なんで気付かなかったんだろう・・・。恐る恐る自分の手を見るとそこには赤く染まっている自分の爪・・・。
「お、俺、なんてことを・・・!」
すると、俺の手を両手で握ってくれる彼。
「大丈夫だ、こんな傷すぐ治る。」
そう言って、シャツを脱ぎ背中を見せてくれた。すると、先程の傷はどこにやら跡形もなく消えている
「えっ、なんで・・・!?さっきは確かにあったのに・・・!・・・あんた、一体何者だ・・・!?」
彼の傷の治りの早さに驚きを隠せずつい口調が荒くなる。すると、シャツを着ながら彼は何かを考えているような素振りをみせる。
「・・・お前は傷の治りが早いとかは感じたことはないのか?」
と、急に聞かれる。
確かに思い当たる節がいくつかある。
普通の人なら治るまで時間がかかる筈の傷でさえ気が付いたら傷が治っていることはあった。・・・けど、それといったい何の関係が・・・?
「確かに・・・あるのはあるけど貴方程じゃ・・・!」
「お前と俺は似ているから。」
「えっ・・・?」
何を急に・・・。驚きが隠せない。何故か頭の中で警鐘がなる、これ以上は聞くな。と言っているように・・・。
「何を・・・、」
「お前は思わなかったか?なぜ俺がここにいるの?と。答えは簡単だろ?こんな森には赤頭巾・・・お前らの敵しかいないって。」
何故か嫌な予感しかない。まさか、彼が・・・こんな優しい彼が・・・?これ以上聞いたらこの人と一緒にいられない。そんな予感がした・・・。
「俺は、お前らが憎くてしょうがない・・・」
それ以上は言わないで・・・!
「狼だ。」
静まり返る部屋。
何も言葉を発せない、発せられない。
彼も何も喋ってくれない。私の様子を伺っているのだろうか・・・?
複雑に絡み合う俺の心・・・、憎い敵・・・でも・・・
不思議と嫌いになれなかった