第21章 かなわない/海堂薫
「相手が海堂君だったからかな…?」
「なんだ…それ。」
そこから静寂の時間が少しの間流れた。
その静寂を切り裂いたのはやはりの方だった。
「海堂君、モモの事…見に来ない?」
突然のその誘いに俺は戸惑った。
「せっかく隣の席になれたのも何かの縁だし、私、海堂君ともっと仲良くなりたい。だから、今日部活終わるの待ってる!」
そう言うと、はどこかに走り去っていった。
「得意だな…言い逃げ…」
残された俺は、1人そう呟いた。
☆☆☆
部活が終わると、もう19:00も過ぎていた。
ふとテニスコートの外に目をやると、が座っているのが見えた。
「すいません、俺先に帰らせてもらいます」
先輩方に挨拶を済ませると、俺はの元へと走った。
「宣言通り、待ってたよ。お疲れ様!」
笑顔で迎えてくれるに俺も自然と口角が上がる。
「え!?海堂君、今笑った!?」
「見間違えだろ…行くぞ。」
俺は直ぐに仏頂面に戻ると、と並び歩き出した。
☆☆☆
しばらく見慣れない道を歩くと、の足が止まった。
「着いた!ここだよ!」
そこは1部屋くらいしか無さそうなアパートだった。
「ここは…?」
「あれ?言ってなかったかな?私、一人暮らしなんだよ。
正確にはモモと2人暮らしかな〜」
はそう言いながら、慣れた手つきで部屋の鍵を開けた。
「ただいま〜!モモちゃーん!」
部屋に入るなり、奥から写真で見た猫が歩み寄ってくる。
「よしよし、お腹すいたね」
見慣れた笑顔でモモを撫でるに俺は思わず見惚れた。
そんな俺に気づきは口を開いた。
「海堂君、どうぞ座ってください」
俺は言われるがまま、ローテーブルの近くに腰掛けた。
「海堂君、お腹すいてるよね?ご飯食べていく?」
は手早くエプロンを付けながらそう言った。
「え…いいのか…?」
もちろん!と言ってはキッチンに立った。
料理を作る音を聞きながら、俺はモモに触ろうと試みる。
モモは、怯む事無く俺に向かってきて頭を差し出す。
「怖く…ないのか…?」
ペットは飼い主に似るって言うからな。
俺はフッと笑ってモモの額を優しく撫でた。