第21章 かなわない/海堂薫
「可愛いでしょ? この眼光なんて海堂君そっくりで…」
そう言うとはハッと口を抑えた。
「俺に?」
「あー…えっと…あ!そうだ!この子の名前ね、モモちゃんって言うんだよ」
一瞬気まずそうにしながらも、は無邪気にそう言った。
「あ?モモ…だと?」
俺は犬猿の仲なアイツを思い出し、声色が変わる。
そんな俺に怯む事無くは話し続けた。
「あの…ね?このバンダナ…最近付けるようになったんだよね」
はモモのバンダナを指さして言った。
そして、こう続けた。
「さっきもちょっと言いかけちゃったんだけど、最近モモが海堂君に見える時があって…それで海堂君のバンダナ真似してみたんだけど…って変だよね!ごめん、聞かなかったことにして!」
そう言うとパッと背を向け、じゃあまた、と走り去っていった。
猫にも逃げられ、にも言い逃げされ…。
俺はしばらく呆気に取られた。
☆☆☆
「海堂くん…ごめん、また教科書忘れちゃって…」
5時間目の数学の授業中。は手を合わせながら申し訳なさそうに俺にそう言った。
「ほら。見えるか?」
俺はの机の方に教科書を押し寄せた。
「うん、ありがとう!…なんか海堂君…優しくなったね?」
気のせいかな?と笑いながらは言った。
確かにこいつと喋ってる時の俺は、以前より物腰が柔らかくなったかもしれない。
俺がどんなに縮こまっても、懐に入ろうとするこいつのおかげだろうな。
「うーん…私本当に数学苦手なんだよなぁ…。でも今日の日付的に私当てられちゃう気がする…」
「もし当てられたら、俺が教えてやる。」
「ほんと?優しいね、海堂君。」
そんなやり取りをしていると、
『おーい、そこ。俺の授業中に見つめあってイチャイチャしないでくれよ』
教壇に立っていた教師が頭をかきながら呆れてそう言った。
「誰がンな事っ…!!」
そう吠える横では顔を赤くしながらしおらしく座っていた。
☆☆☆
「おい。さっきの…気悪くさせたなら謝る。」
数学の授業が終わって俺はにそう言った。
「私は、ちょっと恥ずかしかったけど…嫌じゃなかったよ?」
照れ笑いを浮かべながらはそう言った。