第21章 かなわない/海堂薫
《海堂side》
高校3年。4月。
廊下側の1番後ろの席でまだ少し肌寒い風に舌打ちをしながらボーッと黒板を見つめていた。
「海堂君…だよね?
私、隣の席になった !」
突然そいつは、よろしくと言って俺に微笑みかけてきた。
「あぁ…」
俺の無愛想な返事にも顔色1つ変えず、目を細くして笑っていた。
とは、高校に入ってから初めて同じクラスになった。
たった1年の間にただ隣の席になっただけの、まぁそんなもんはほぼ他人だろ。
そう思っていた。
☆☆☆
「海堂君、そのバンダナいつも付けてるよね?
たくさん持ってるの?」
「あぁそうだ… 」
「教科書忘れちゃって…海堂君、見せてくれない…?」
「…ほら」
……隣の席ってだけでこんなに接点があったか?
今まで隣に座ってた女は俺を見ることすらしなかったぞ。
それも失礼な話だがな…。
どうやらは、俺に他の奴らと同じように接してくれているらしい。
当たり前なんだが、その当たり前を実行出来るやつはなかなかいない。
俺みたいな無愛想で無口でテニスしか脳がない様な奴、女なんか寄り付いた事がなかった。
そんな俺がを意識する様になるのに時間は要さなかった。
叶わない。そんな事分かってんだよ。
それにテニス一筋の俺が女にかまけてる暇なんて。
☆☆☆
ある時の休み時間。
俺が校庭の隅で猫を見ていると、後ろから声が聞こえた。
「海堂君?何してるの?」
その声に驚いた猫は、サッと逃げてしまった。
「…いや、別に…」
「それ、猫じゃらし?」
は俺の右手にあるそれに目をやり首を傾げた。
俺はなぜかそれを咄嗟に捨て、別に…とまた呟いた。
「海堂君って…猫好きなの?」
は目を輝かせて問いかけてくる。
俺が返答に困っていると、そんな事気にかけもせずこう続けた。
「私、猫飼ってるの!そうだ、写真見せてあげる!」
そう早口に言い終えると、制服のブレザーのポケットから携帯電話を取り出した。
それを手早く操作して、俺に画面を向ける。
画面に映ったのは、黄色い目が鋭く光る黒猫だった。
よく見ると首には緑色のバンダナが巻かれていた。
「か…可愛いな…」
俺は思わずそう呟いた。