第20章 強運尽きて/千石清純
「やぁ、ちゃん。話し声は聞こえてなかったよ?ただならぬ雰囲気を感じて近づいてみたら、亜久津がキミを泣かせてたから。」
「けっ。てめぇ、惚れた女1人大切に出来ねぇやつが何言ってやがる。こいつを泣かせたのは俺じゃねぇよ。」
亜久津はそう言うと、タバコの火を消しその場から立ち去ろうと歩き出した。
「おい、。負けんなよ。」
亜久津は、一瞬顔だけ振り返りそう言うと、また歩みを進めた。
「ちゃん、大丈夫?泣いてちゃ可愛い顔が台無しだよ。」
私は亜久津の言葉に後押しされ、重たい口を開いた。
「千石…!私と、デートしよう!」
「え!?い、いいの?いや、て言うか…こちらこそお願いします…。」
「き、今日!放課後、校門で待ってるから!」
私はそう言い残して、その場を走り去った。
「…まじ…?」
1人残された千石が嬉しそうに緩んだ口元を手で隠して、顔を赤らめていることを私は知る由もなかった。
☆☆☆
「や、やぁ!お待たせ!」
その日の放課後、私が校門で待っているとどこかぎこち無い表情の千石が声をかけてきた。
「千石…、今日私の家に来てよ。少し、話したいこともあるし、ね?」
私は真っ直ぐ千石の瞳を見つめた。
「う、うん。分かった。」
2人ともどこか気まずい雰囲気で、私の家までの道のりを歩いた。
普段なら10分程で着くはずの距離が何倍にも感じられた。
「着いたよ、上がって。」
ようやく到着すると、私は千石を家の中へと招き入れた。
「お、お邪魔します。」
千石はそう言うと、靴を脱ぎ揃えた。
「こっちだよ。」
私の白を基調とした部屋に、千石のオレンジ色の髪がキラキラと映えていた。
しばらく続く沈黙を破ったのは私の方だった。
「私…今日、千石がほかの女の子デートに誘ってるの見ちゃったの。」
「あ…それは…!」
「それで、悔しくて泣いてた。そしたら、亜久津に喝入れられちゃってさ。だから、私戦うことにしたの。誰にも負けないよ。それで考えたの。こうするしかないかなって。」
私は千石の頬にキスをした。
「!?」
千石は私の唇が触れたところを手で押さえ顔を赤く染めていた。
「好きなの、千石。私だけ、見てて欲しいの。」