第20章 強運尽きて/千石清純
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「おっ、こんな可愛い子に出会えて俺はなんてラッキーなんだろう!今度デートしない?」
私が渡り廊下を歩いていると、ふとそんな声が聞こえた。
見なくても分かる。こんな事を所構わず大きな声で言えるのなんて、学校中に1人しか居ない。
一応声の方を見てみると、見覚えのありすぎるオレンジ色の髪の毛。
一緒にいる子は、ボブくらいの髪の毛を内巻きにした小さくて可愛らしい感じの子だった。
「え!?ほんとにデートしてくれるの!?じゃあ今度の日曜日、一緒に紅葉見に行こうか♪︎」
どうやら、デートのお誘いが成功したらしく千石は嬉しそうに笑っていた。
(紅葉は私が先に誘われたのに…。私が行くって言ってればあの子を誘うことはなかったのかな…。)
まさに後悔先に立たず。結局、千石は私じゃなくても誰でも良かったという事。私は千石にとって選択肢の1つでしか無かったという事。悔しくて、辛くて、私は無我夢中で渡り廊下を走り抜けた。
人気のない裏庭に出ると、私は膝を抱えてしゃがみ込み、ポロポロと溢れる涙で地面を濡らした。
「おい。何してんだ、こんな所で。」
「あ、、、亜久津…。」
「チッ。泣いてんじゃねぇよ、めんどくせぇ。」
亜久津は近場にあった木にもたれ掛かると、ポケットからタバコを取り出し火をつけた。
「…私、千石からデートの誘い受けてたんだけど、断ってたの…そしたら、別の子を誘ってる所見ちゃって…その子とデートするんだって…」
私はすすり泣きながら、途切れ途切れにそう言った。
「けっ、くだらねぇ。アイツがそういう奴なのは今に始まったことじゃねぇだろ。んで、お前は戦いもしねぇでメソメソ泣いてんのかよ。その時点で負けてんだろうが。」
「っ!そんなこと…!」
「んな泣くほど好きな奴なら、他の奴に取られないくらいいい女になれ。」
私は今までの自分を振り返った。好きな気持ちをひた隠しにしたまま、千石に話しかけられても無愛想に返すだけだった。デートの誘いを断り続け現状維持を望んだのは私だった。
好きなのに、他の子と一緒になりたくないのに、自分から何も行動しなかったのは紛れもなく私の方だ。
私の頬にまた涙がこぼれ落ちた。
「こら、亜久津。女の子泣かせちゃいけないよ。」
背後から千石の声が聞こえた。
「千石!?いつから聞いてたの…」
