第20章 強運尽きて/千石清純
《夢主side》
「おっ、ラッキーだなぁ☆今日の俺のラッキーカラーは緑色なんだ。キミが緑色のジャージ着てくれてて良かったよ。」
テニスコートに入るなり、千石は私に向かってそう言った。
中学1年から高校3年の今までずっと同じクラスで、マネージャーとして入部していたテニス部でも一緒のこの男。所謂腐れ縁とでも言うんだろうか。私は千石清純に秘かに想いを寄せている。
「学校指定のジャージが緑色だからね。私じゃなくても皆同じ色のジャージだよ、ほらあそこにいるのも。」
そう言って私は、コートの端で気だるそうに立っている亜久津を指さした。
「う…。いやぁ、キミだからいいんだよ。」
「そんな事言って、ここに来るまでに何人口説いてきたの?」
「あ〜…はは…可愛い女の子を見かけるとつい声を掛けたくなっちゃうんだよ。」
私は相変わらず女好きな千石に呆れたようにため息を吐いた。
私はなんとなく、女好きな千石の中でも優先順位があるんじゃないかと思っている。
確かに千石は可愛い女の子を見つけると見境なく声をかけてしまう節があるけれど、その1回きりで終わる名前も覚えられない子、毎回挨拶はするけれどそれ以上の進展がない子、そして千石が気に入っているらしいよく話しかける子。
自惚れや願望なのかもしれないけれど、私は千石から気に入られていると思う。
単に同じクラス、同じ部活でよく顔を合わせるからというだけの線も捨てきれないけれど。
☆☆☆
「ねぇねぇ、デートしようよ♪︎」
ある日の放課後、千石からもう何度目かも分からないデートの誘いを受けた。
何度も誘われてはいるけれど、1度も実現はしたことが無い千石とのデート。
「また言ってる。ほんとは行く気も無いくせに。」
「そんなことないよ!そろそろ紅葉の季節だし、もみじ狩りにでも行こうか☆」
デートが1度も実現しない理由。それは私が断り続けているから。
私は千石が好きだけれど、千石はきっと私と同じ“好き”じゃない。
そんな状態でデートに行くのは、数多いる他の女と一緒になってしまうから。
1度でもデートをしてしまえば、もう2度目がなくなってしまうのではないだろうか、と不安になってしまうから。
本当に私は大変な人を好きになってしまった。