第19章 好きって言って/伊武深司
「伊武先輩も何かあったら声掛けてくださいね!」
毎日部活の最初にそれだけ言うとそれっきり自発的には寄ってこない。
「あれ?なんか俺避けられてる?どうせ俺のこのボヤきが気に食わないんだろ。全く嫌になるよな。」
「深司!お前分かってるならやめろよ、それ。」
神尾がいつの間にか横で聞いていたようで、俺の肩をポンと叩いてそう言った。
「はぁ。めんどくさいなぁ。」
「神尾先輩お疲れ様です!タオルどうぞ!」
俺と神尾が並んでいると後ろからが声をかけてきた。
は神尾にだけタオルを渡して、俺の方をチラッと見た。
「あの…伊武先輩もタオル良かったら…」
たどたどしくそう言って残っていたタオルをそーっと俺の方に差し出した。
「あぁ。ありがとう。ていうか、キミさ。」
「は、はい。」
「俺の事嫌い?」
「いえ!そんなことないです!あの…、伊武先輩が私の事嫌い…なのかなって思いまして…」
はそう言って俯いた。
「俺が?そんなことないけど、なんでそう思ったんだろ。俺のせい?」
「えっと…初日の時に、マネージャーは必要ないって言ってたので…私の事よく思ってないのかな…って」
「あぁそういう事か。確かに最初は必要ないと思ってたけど、はよくやってくれてるし、頑張ってると思う。そんなこと気にしてるとは思ってなかった。…すんまそん。」
俺がそう言うと、は顔を上げた。俺の方を見る顔は赤くなっていて、この前見た困ったような笑顔とも太陽のような笑顔ともまた少し違う顔をしていた。
強いて言うなら、へにゃっとした様な笑顔って言うのかな。
「そんなこと言って貰えると思わなくて…ありがとうございます…!失礼します!」
は勢いよく振り返るとその場を走り去っていった。
「ふーん。あれは落ちたか?」
横で神尾がニヤニヤしながらの後ろ姿を見つめていた。
「落ちたってなに?ていうか、あんまりニヤニヤしながらマネージャーのこと見るなよな。気持ち悪いと思われても知らないよ。」
「ははっ!今後のちゃんの動きに注目だな!」
「はぁ?なんだよそれ。意味わかんないなぁ。」