第2章 シナリオ通りじゃない/観月はじめ
「その、はじめというのは…いかがなものかと…」
「え、名前はじめって言ってたよね?」
「僕の周りは皆苗字で呼びますので。名前で呼ばれるのは慣れませんね。」
はじめは困惑した表情で、カップを口元へと運ぶ。
私はその様子をじっと見つめていた。
カップから唇が離れると、はじめが鼻を抜けるような声を漏らした。
「う〜ん。やはりここで飲む紅茶は最高ですね。」
「…。あ!それでさっきの話!たまに、待ち合わせとかしなくていいから、一緒になることがあったらここで一緒に過ごそうよ!」
「えぇ。それでしたら、かまいませんよ。」
「ほんと!?私、ここでなかなか友達が出来なくてさ。いつも1人なんだよね。」
「そうでしたか。まぁ、貴女はこの学校では異色ですからね。」
「皆私と関わろうとしないんだ。この見た目の問題なのは分かってるけど、自分の好きな格好してたいから。」
「無理に変わらなくてもいいんじゃないですか?そういう芯のある方は好きですよ、僕はね。」
ありきたりだけど、この突然の“好き”という言葉に不覚にもキュンとしてしまった。
私を好きって言われたわけじゃない。それは分かってる。
でも変わらなくてもいいって言われたことが、私を認められた気がして、嬉しくて胸が高鳴った。
「では、僕はこれで失礼しますね。またの機会に。さようならさん。」
はじめは軽く会釈をして中庭を後にした。
(あ、名前…。覚えてくれたんだ…。)
そんな些細なことが嬉しく感じた。
はじめは、自分と真逆であろう私にも皆と同じように接してくれた。
この学校でそんな人に出会ったのは初めてだった。
☆☆☆
次の日から、中庭に行くのが楽しみになって気付いたらテニスコートにいるはじめを目で追っていた。
たまにテニスコートに誰もいなかったら、今日会えるかもと期待した。
そして、はじめが中庭に来て一緒に過ごす時間がとても楽しくて、あっという間に時が過ぎていった。
そんな生活が1ヶ月程続いて、私はついに自分の気持ちに蓋を出来なくなった。
中庭ではじめと紅茶を飲んでいる時、私は告白しようと決心した。
「は、はじめ!」
「どうしたんです?急に大きな声を出して」
「私、はじめのこと好きになっちゃったみたいなの…。」
はじめは目を見開いてあからさまにビックリしたような表情を浮かべた。
