第2章 シナリオ通りじゃない/観月はじめ
「おや?まさか先客がいるとは。」
振り返ると、前髪をくるくると弄りながら佇んでいる生徒がいた。
「あ、いつも怒ってる人…」
私はつい口から出てしまった言葉にハッとして、自分の口を抑えた。
「それは聞き捨てなりませんね。僕はいつも怒ったりなどしていませんよ。今日だって、部活が休みだからこうしてバラを愛でようと中庭に来たんですから。」
「そ、そうなんだ!ごめんね!あ、私2年の!」
「僕は3年の観月はじめです。テニス部の選手兼マネージャーをしています。」
「選手でマネージャー?大変そうだね」
私がそう言うと、はじめは少し不愉快そうに目を細めた。
「うーん。今の自己紹介でわかったと思いますが、僕の方が先輩ですよ?どうして僕が敬語で貴女はタメ口なんですか?」
「え、だって私ギャルだよ?ギャルは敬語なんて使わないよ!」
「それはいけませんね。僕はギャルというものをよく分かりませんが、本当にギャルは敬語を使わないんですか?もしも敬語を使うギャルがいたとしたら、貴女の今の発言はその方にとって失礼に値しますよ。」
「う…。ごめんなさい。でも、私ほんとに敬語苦手で、タメ口でもいいでしょ?お願い!」
「まぁ、もうあまり話すこともないでしょうし今日はそれで構いませんよ。それより見てください、このバラ。美しいですね。」
そう言って、はじめはどこから出したか分からないティーポットとティーカップで紅茶を入れ始めた。
「え?飲むの?」
「ダージリンですよ。貴女も飲みますか?幸いカップも2つある事ですし。」
(だからどこから出してんの…?)
なんて思いつつ、頂くことにした。
「わ。美味しい。」
「当然です。僕が入れたんですから。」
はじめはまた前髪をくるくると弄り始めた。
「僕は、部活がない日はいつもここへ来てバラを愛でながら紅茶を飲んでいるんです。優雅な休み方でしょう?」
「私は、毎日ここでお昼ご飯食べてるよ」
「おや?そうなのですか?ここからはテニスコートが見え…あぁ、僕が柳澤達に怒っているのを見ていたんですね。」
「ここに居るとすごい聞こえてくるんだよ。キレイな声だなぁって思って聞いてた。」
「そうでしたか。」
「ねぇ、たまにここで一緒にご飯食べない?あ、はじめは紅茶飲むだけでもいいし。」
私がそう言うと少し驚いた顔をした。