第16章 男は度胸/向日岳人
「え、あ…でも岳人が侑士くんに用事あるみたいだよ?」
「は?何?お前ら一緒に帰るつもりなの?」
岳人は少し不機嫌そうにそう言った。
「暗いから送る、言うたとこや」
「へ、へぇ。まぁ女1人じゃ危ないかもしれないしな!」
「ええんか?岳人…」
「何が!?意味が…分からねぇけど…」
岳人がそう言うと、侑士くんはどこか呆れたような表情で、「ま、ええわ」と呟いた。
「ほな行こか嬢ちゃん…」
侑士くんは私の腰に腕を回すと、急かすように私をグイグイと押して歩いた。
「…っ!おい!侑士!」
後ろから岳人の声がして私は一瞬振り向くも、侑士くんによって立ち止まらせてもらえず、私たちは足早にコートを出た。
家に着くまでの道中、特にそれといった会話もなかったけれど、最後に侑士くんはこう言った。
「送ったんが岳人やなくてすまんなぁ…。アイツはお子ちゃまやから、素直になれへんだけやねん…。」
私は、侑士くんに私の気持ちがバレていたのかと恥ずかしくなった。
侑士くんと別れ家に入ってから、“素直になれない”の言葉の意味を考えて、もしかしてと辿り着く答えはただの私の願望でしかなくて。
「岳人…私、分かんないよ…」
私はそう呟くと、そのまま目を閉じて眠りについた。
☆☆☆
次の日。
私はいつも通り学校に向かい、玄関で靴を履き替えているとふと声をかけられた。
「よぉ。おはよ。」
振り返ると岳人が少し怒ったような顔で靴棚にもたれ掛かり立っていた。
「あ…岳人、おはよう…」
私はなんとなく気まずくて、目を逸らしながら挨拶を返した。
そんな私の態度が気に入らなかったのか、岳人は小さくため息を吐いた。
「ちょっと、こっち。」
岳人はそれだけ言うと私の腕を掴み、そのまま廊下をズンズン歩いていった。
「ちょっ…岳人!?」
私の声に耳を傾ける様子もなく、岳人はただ前だけ見つめて私の腕を引っ張った。
岳人が私を連れて来たのは、滅多に人の来ない視聴覚室だった。
「ここならいいか…」
岳人は独り言のようにそう呟くと、私を壁に押しやった。
ドンと鈍い音が耳元で鳴った。音のなる方に目をやると、岳人の握った拳が私の耳の横あたりにあった。
「…岳人…?」
「楽しかったのかよ。」
岳人は低い声でそう言った。