第16章 男は度胸/向日岳人
《夢主side》
高校3年の4月。
私がマネージャーとして加入しているテニス部の部員達は
春の大会に向けていつも以上に練習に励んでいた。
「ムーンサルトぉ!」
「岳人…飛ばしすぎやで。それじゃあ体持たんわ。」
「くそくそっ!もっと体力つけてやる!」
無茶苦茶なジャンプをする岳人に注意をするのは侑士くんの役目。
私はそのやり取りをただ遠目で眺めるだけだった。
(岳人、またあんなに高く飛んで…。大会前に怪我しちゃ元も子もないのに…。)
私は実はこっそり岳人に恋をしている。
いつも無理をする岳人を見ている内に心配や期待など色んな感情を持つようになり、いつしか目で追うようになった。
そこから恋に落ちるには時間はかからなかった。
「私も、岳人に無理しないでって言える立場になりたいな…」
私はボソッと呟いて、春の青空を見上げた。
☆☆☆
一方その頃岳人と侑士くんとの間ではこんな会話が繰り広げられていた。
「なぁなぁ、侑士。マネージャーさ、なんかこう、俺の事見てるよな?」
「さぁな。俺の事見てるんかもしれへんし。」
「なんだよ!侑士相手じゃ俺勝ち目ねーじゃんかよ!」
「岳人…お前、マネージャーのこと好きなんか?」
「う!い、いや…まぁ…」
岳人はごにょごにょと濁しながらも肯定するような態度を取った。
そんな岳人を侑士くんはニヤニヤと笑いながら見ていた。
(何の話してるのかな…。ここからじゃよく聞こえないや…。)
私は仲良さそうにお喋りする2人を羨ましく遠くから見つめた。
☆☆☆
練習が終わると、侑士くんが私に声をかけた。
「お嬢ちゃん…お疲れ様。」
「お疲れ様、侑士くん!」
「結構暗くなってもうたし、家まで送るわ。」
突然のお誘いに即答できずにいると、後ろから岳人が近づいてくる。
「侑士!…とマネージャー!?お、おつかれ…」
「あ…お疲れ様、岳人!」
1年の時からずっとマネージャーとして一緒に居たけれど、好きと自覚してからは岳人と話すと妙に緊張してしまうようになった。
そのせいなのか、岳人も私と話す時になんだかよそよそしくなった気がする。
「嬢ちゃん、行くで?」
侑士くんがそんな私たちを割って入るように口を開いた。