第2章 シナリオ通りじゃない/観月はじめ
《夢主side》
私には、どうしてもどうしても落としたい相手がいる。
いつもスカしてて、私のアタックも全く効かない相手。
それが観月はじめだ。
「はじめ!来たよ!」
「はぁ〜。また貴女ですか。」
はじめは大きくため息をついて、眉間に手を寄せた。
「はじめ!一緒に帰ろ!」
私がそう言ってはじめの腕を取ろうとすると、華麗に避けられた。
「僕は人から触られるのは苦手なんですよ。それと、貴女のような騒がしい人も、あまりすきではありませんね。」
では、と言って、はじめは教室を出ていった。
「もう!今日もダメだった!」
私は本気ではじめに惚れている。きっかけは些細なことだった。
私はいわゆるギャルで、真面目な生徒の多いこの学校では
なかなか浮いている存在だった。
そんな私が、なんでこんな学校に通っているかと言うと、私の両親が医者と看護師で、将来は医療の道に進むように小さい時から言われていたからだ。
小さい頃から、勉強勉強の日々で疲れてしまった私は、中3の頃からグレだした。
制服のスカートは3つ折りが当たり前。カーディガンはベージュのオーバーサイズの物を着ていた。金髪に染めたロングパーマをシュシュでポンパスタイルにして学校に通っていた。
この高校に入ってからそんな私には誰も寄り付かず、私はいつも1人で中庭で昼食を食べるようになった。
中庭にはバラのアーチがあって、その先にテニスコートが見えるようになっていた。
ある日、ボーッとしながら菓子パンを食べていると、テニスコートの方から、透き通るような声で、でも迫力のある怒声が聞こえた。
「いい加減になさい!どうしていつもいつも貴方たちは…!!」
それが、初めて観月はじめを認識した瞬間だった。
(わぁ…怒ってる…。)
ふふっと笑って、また菓子パンを口に運んだ。
毎日テニスコートを見ていると、何日かに一度あの時のような怒声が聞こえる日があった。
(あ、また怒ってる…)
怒ってるけど、口調は丁寧で、それがおかしくていつも笑ってしまう。
☆☆☆
「あれ?今日はテニス部休みなのかな?」
私がいつものように中庭のベンチに座ってテニスコートに目をやると誰もいないようだった。
「なんだつまんない。」
私がぽつりと呟くと、後ろから聞き覚えのある声がした。