第12章 要注意人物/忍足侑士
「お嬢ちゃん…大丈夫か…?」
後ろから、背中がゾクッとするような低い声が聞こえた。
振り返ると忍足先輩が立っていた。
「あれ…?忍足先輩、影分身してる…?」
「キミ、何言うてんねん…」
私の視界はグルグルと回り続け、その会話を最後に私の記憶は途切れてしまった。
☆☆☆
「ん…んんぅ…」
私は唸り声を上げて目を開いた。
見慣れない天井。薄暗い部屋には、ピンクやら紫やらのライトが照らされていた。
「え…なんか…」
私は自分の下半身で冷たい何かがゆっくり動いていることに気づいた。
首だけ起こして自分の体に目を向ける。
なぜだか私は服を一切身につけていなかった。
目に入るのは、解放されて少し横に流れた胸。そしてその膨らみの向こうに光るメガネとふわっとした黒い髪の毛。
チョリチョリ…
嫌な音が聞こえたのと同時に下半身にまた冷たい何かが触れる感覚がした。
「ちょっと!?なに!?」
「あ…やっと起きた…というか、急に起き上がったら危ないやん」
私が驚いて飛び起きると、目の前には忍足先輩。
そして、忍足先輩の手には…カミソリ?
嫌な予感がして恐る恐る自分の女性の部分に目を向ける。
あるはずの物が全てなくなっていた。
“毛”を剃られてしまっていたのだった。
「え…とこれはどういう状況…」
「なんや。覚えてへんの?昨日のお嬢ちゃん、おもろかったで」
「昨日…?え、今何時…」
と周りを見渡すと、ある事に気づいた。
ムーディな照明に、小さい冷蔵庫。その横には、怪しいおもちゃ?が売られた販売機。頭元にあるデジタル時計は朝の8:00を知らせている。
そして、ダブルベッドに男女が2人。
あろう事か毛まで剃られて、何もかもを見られてしまった私は何となく事の重大さを理解した。
「私…先輩とシちゃった…んですね…」
「いや?シてへんで?」
忍足先輩の思いもよらない返答に、え?と首を傾げた。
「昨日…お嬢ちゃん…1次会のあと倒れてしもて、俺が介抱したんよ」
「そうなんですか…ありがとうございます…とはならないですよ!?」
すると、プッと吹き出す忍足先輩。
「ノリツッコミか…おもろいやっちゃなぁ…」
「介抱したとして、どうして私は裸なんですか!?」
私は恥ずかしさを隠すため声を張り上げて聞いた。