第11章 愛だとか恋だとか/亜久津仁
「吸ってないよ、お香代わりに焚いたの」
「あぁ?なんでんな事する必要があるんだ?」
「仁を…少しでも感じたかったから…」
そう言った私を仁は可笑しそうに笑った。
「悪かったな、待たせちまって」
「大丈夫!ねぇ、お腹すいてない?ご飯食べよっか!」
私はそう言うと、テーブルの上に作っておいたチキンやサラダ、そしてシャンパンを並べた。
「酒弱ぇくせに、飲むのか?」
「今日はクリスマスだからねぇ」
そう言うと、ポンっという音を響かせながらシャンパンの蓋を開けた。
私はキラキラした気泡が立ち上っているシャンパンの瓶を傾け、2人分グラスに注いだ。
「はい、どうぞ」
そう言って片方を仁の方に置いた。
先に飲んでしまっても構わないのに、私が乾杯の音頭を取ると思って律儀に待つ仁が愛おしかった。
「カンパーイ!」
「うるせぇ、はしゃいんでんじゃねぇよ」
そう言いながらも、仁はグラスを私のグラスにゆっくりと近づけた。
チンっと高い音を鳴らしながらぶつかるグラスをお互い口元へと運んだ。
「お肉私が焼いたんだよ」
そう言って私は笑って見せた。
ふっと鼻で笑う仁は、悪くねぇなんて言いながら食べる手を進めた。
「私、仁と付き合う前はクリスマスって家族で過ごしてたの」
楽しい食事が進んでそろそろお腹もいっぱいになっていた時、私はおもむろに口を開いた。
「お母さんが今日みたいなチキン焼いてくれて、家族みんなでおっきいホールケーキ食べて、私が眠って起きたら枕元にプレゼントが置いてあって」
饒舌に話し続ける私を、仁はただ黙って見つめていた。
「私にとってクリスマスってすごくキラキラしてる日で、楽しくて仕方なかったんだ。だから、いつか私に子供が産まれたら、その子にも同じように楽しいって思ってもらえるクリスマスを家族で過ごしたいなぁって思うの。」
普段仁にこんな話はしたことないけど、私がこんな事を口走ってしまったのはクリスマスの雰囲気のせいか、さっき飲んだシャンパンの酔いのせいか。
「俺は、親父のことなんざ知らねぇ。」
今まで黙って聞いていた仁が口を開いた。
「親父がどういうものなのか、俺には分からねぇ。だから、お前の理想の親父にはなれねぇかもしれねぇ。いいのか?」
「え…と…それは、私の子供のお父さんは仁の前提で言ってるの?」
「なっ!?」
