第11章 愛だとか恋だとか/亜久津仁
《夢主side》
今日は仁と半同棲の生活を始めてから初めてのクリスマス。
社会人になって1人でアパートで暮らすようになった私の部屋に
仁が度々転がり込むようになった。
私は浮かれた気持ちのままに、仁の好きなモンブランを買ってチキンを焼いた。
七面鳥は高いし2人で食べるには少し大きいから、スーパーの鶏もも肉を2枚買った。
プレゼントもケーキも用意して、チキンだってたった今焼けた。
それでも、仁が来ると言っていた時間にはまだ1時間以上あった。
ソファに腰をかけ、携帯電話を手に取った。
仁からの連絡はない。
私たちはあまり頻繁に連絡を取らなかった。
仁が取りたがらないから。
おはようもおやすみも、LINEでやり取りする意味が分からねぇ。
なんて言ってたっけ。
んなもん直接言えばいいだろうが。
とも言っていた。
私は仁らしいなと思って笑った記憶がある。
私からも連絡することなく、一旦手に取った携帯電話をまたテーブルに戻した。
「仁…今何してるのかな…」
私の独り言は宙を舞って狭い部屋を漂った。
☆☆☆
時計は、約束の18:00を15分ほど過ぎた所を指していた。
まだ仁からの連絡はない。
しばらく時計と携帯電話を交互に見る時間が続いた。
「会いたい…」
私はそう呟くとある事を思いつき、ソファを立った。
いつだったか仁が私の部屋に忘れていったセブンスターを、箱から1本取り出すとそれに火をつける。
それを灰皿の上に置き、お香代わりにした。
むせるほどの匂いが部屋に立ち込める。
「仁の匂いだぁ…」
私はその匂いを嗅いで、寂しさを紛らわした。
☆☆☆
しばらくすると乱暴にドアが開けられる音がした。
いつの間にか寝てしまっていた私はその音で目を覚ました。
時計を見ると、19:00。
私は起き抜けのぼんやりした目を擦り玄関へと向かった。
「仁…?」
「待たせたな」
「ううん!大丈夫だよ!何かあった?」
私がそう聞くと、仁は少し不機嫌そうに顔を曇らせた。
「ババァの店のバイトが無断欠勤したんだとよ。で、俺を借り出しやがったんだよあのババァが。」
「そ、そうだったんだ…お疲れ様…」
「お前、タバコ吸ったのか?」
灰皿に残った1本の吸殻を見て、仁はそう言った。