第1章 光と影
妙な沈黙。
「観音坂、餌付けされてんのかー?」
「ち、違うよっ……」
茶化されて、少し雰囲気が柔らかく戻ってホッとする。
怒ってないとは言っていたけど、やっぱり友人をイジられたら嫌な気持ちになるのは当然だ。
反省しないと。
そういえば、肝心な事を聞きそびれた。
「変な事聞いてたら、ごめんね。まさか、一二三さん、独歩の彼氏……とかじゃ……」
「はぁ?」
物凄い嫌な顔をされる。
「どうやったらそんな思考になるんだよ……女ってそういう話好きだよな……違うよ……」
「あはは、そっか。ほら、だって、必死だったし、そんなに会わせたくないのは、もしかしたらって……」
「……まぁ、でも一回でも会ってるなら……機会があったらな」
どうしても会いたいわけじゃないから、無理に会わなくてもいいんだけど、でも普通に話せるようになったなら、いいかと思った。
何事もなく仕事が終わり、帰る準備を始める。
「観音坂君」
課長のいつもの彼を呼ぶ声に、またかとため息が出る。
ほんとに独歩を虐める時だけは、活き活きしてるんだからあのハゲは。
また仕事を押し付けられ、デスクでため息を吐いた独歩を見て、私は放っておけなくなる。
カバンを持って、定時で帰る職員達に励まされながら、それを見送る独歩に近づいて、隣に座る。
「お疲れ……って、え?」
「半分貸して。二人でやれば早いでしょ」
「いや、でも……」
「黙って甘えてなさい」
納得いかないような顔の独歩に、コーヒーを奢ってもらうのを条件に、半ば無理矢理に書類を分けて、ノートパソコンを開く。
静かなオフィスに二人のキーボードの音と、時計の音が響く。
何だか、妙に落ち着く。
独歩のふわふわした雰囲気のせいなのか。私だけなのか、彼といると何処か癒される。
「んんーっ! はぁ……ちょっと休憩しよっか」
「じゃぁ、コーヒー奢る」
「あ、独歩待って」
カバンを探って、飴玉を握る。
「はい、口開けてー。あーん」
「え? あー」
もう完全に体が覚えてしまったのか自然に口を開ける独歩が、それをした後にハッと我に返るのが見て取れる。
「ぷっ、あはは、何て顔をしてんのよ。ほんとに独歩は可愛いよね」
「かわっ!? べ、別に可愛くねぇよっ!」