第1章 光と影
お弁当を興味深く見られて、何だか恥ずかしくなってくる。
「これ、冷食入ってないよな? 全部作ってるのか?」
「ウインナーとか以外は、出来るだけ作ってるかな……あんまり見ないでよ、大したもの入れてないし……」
「あ、わ、悪いっ……」
おにぎりに戻る独歩に、ふと疑問をぶつける。
「あれ、でも独歩もしょっちゅうお弁当持って来てたよね? 今日はないの? 彼女と喧嘩したから、作ってもらえないとか?」
私が言った言葉に、むせる独歩の背中をさする。
「か、かかか、彼女じゃないし、彼女なんていないっ! あ、あれは同居人の幼なじみがたまに作ってくれるから。ちなみに男だ」
独歩のお弁当を何度か見た事があった。色とりどりで、栄養バランスもちゃんとしてて、私と同じで冷食は入っていなくて、料理上手な彼女がいるのだとばかり思っていた。
そっか。彼女は、いないのか。
「へー、幼なじみの同居人がいるんだー。しかも料理上手とかいいじゃん。あんな凄いお弁当作れる人なんて、興味津々。会ってみたいなー」
「駄目だっ!」
突然の強い口調に、驚いてしまう。
彼が、こんなに声を出す事がないから、驚きに目を開く。
「す、すまんっ! いや、あの、そいつ女苦手だし、ホストだし……」
「……ん? 女の子駄目なのに、ホスト?」
よく聞くと、女性恐怖症を治す為にホストをしているらしい。ナンバーワンだそうだ。
「その人って……一二三さん?」
「えぇっ!? その……知り合いか?」
「あぁ、私は行かないよ。ああいう華やか系の店苦手だし。私のいとこがそこで働いてるの。昼間にたまたまいとこと近くで買い物してたら会って、物凄く怯えられた記憶があるから、その人かなぁって」
ジャケットを羽織ると人が変わる面白い人。
「上着だけであんなに人が変わるなんて、変わった人だよね」
それを思い出し、少し笑う。
「やっぱり……お前も……一二三の方が……」
気づいたら、手を握られていた。けど、力が入っているのか、少し痛い。
「ど、独歩っ……どうしたの……痛いっ……」
「あっ、す、すすす、すまんっ!」
「私も、友達なのに言い方悪かったし、怒るのは当然だよ。ごめんね」
「べ、別に怒ったわけじゃない。すまん」
苦笑し合って、お弁当に戻る。