第1章 光と影
独歩の事かと二つ目のコーヒーを待ちながら、聞き耳を立てる。
「あれはない」
「えー、こないだ書類拾ってもらった時、ちょっと笑ったとこ見たんだけど、可愛かったよー。ミカ営業だよね?」
「いくら可愛くても、仕事でしょっちゅうミスしてずっと謝ってるし、課長に目の敵にされて怒られてばっかで仕事出来るイメージないし、何より暗くてボソボソ喋るから、不気味な陰キャ代表って感じ。こっちまで不幸貰いそうで、おすすめは絶対しないわ」
酷い言われように、少しだけムッとするけど堪えてコーヒーを両手に持ってその場を移動する。
見た目だけ、上辺だけで判断する人ばかりだけど、私くらいは彼をちゃんと理解しててやりたくなる。
昼休みだと言うのに、今も疲れた顔でパソコンと睨めっこしている独歩を見て、また苦笑する。
「観音坂ー、昼行くけどお前は?」
「あー、まだ少しやる事あるから、すまん」
「あんま根詰めんなよ」
「あぁ、大丈夫大丈夫」
どの顔下げて大丈夫なんて言うのか。多分誰が見ても、この会社で一番大丈夫じゃない顔をしてる。
一人になった独歩に歩み寄り、机に両手にある片方のコーヒーを置いたら、疲れた顔がこちらを見上げた。
「え……」
「お昼くらいちゃんと休まないと、酷い顔だよ」
「サンキュー……悪いな、気を使わせて……ほんとーに、駄目だな……俺」
落ち込みながらもコーヒーを口にした事にホッとして、自分のデスクに移動してまた戻って、独歩の隣の空いている席に座る。
「……何、してんだ?」
「何って、昼休みだから、お昼ご飯食べるのよ」
不思議そうに言う独歩を他所に、私はお弁当を広げる。
「はい」
「ん?」
「あげる。ちょっとでも食べなさい。口に合わなかったらごめんね」
おにぎりを渡して、自分も手を合わせて口に入れていく。
おにぎりと私を交互に見比べて、困惑していたけど私が気づかないフリをし続けると、小さい声で「いただきます」と言った後にモソモソと食べ始めた。
「う、美味い……」
「そう? やった。ちょっとアレンジしてるんだー」
「料理、好きなのか? いつも、弁当だよな?」
「よく知ってるね。うん、作るのは好き」
ほんとによく見てる。忙しく走り回る彼に、そんな暇があった事に驚きだ。