第2章 2杯目
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至れり尽くせり、ってこの事を言うのか。
なんて、鼻歌を歌いながらドライヤーを
持ってきた透くんを見て思った。
「……僕の顔に何かついてます?」
「うん、カッコいい顔がついてるよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「透くんってさ———」
声をかけようとしたらドライヤーのスイッチが入り
私の声がかき消された。
いや、聞かれたくないのかもしれない。
私より歳上そうだけど、ずっと敬語だな。
敬語の方が楽なのだろう。
ぼけっと髪の毛を乾かされながら
鏡越しに透くんを見る。
「……に、……ですか?」
「え、なに?」
ドライヤーの音でかき消されて聞こえない。
ふっと優しい顔で笑って口を閉じていた。
後で聞いてくるんだろう。
乾かしてもらうたびにサラサラになっていく髪の毛。
男の人でこんなに綺麗に乾かせるのか。
なんなら私より上手な気がする。
少しして完璧に乾き、サラサラに生まれ変わった髪の毛。
「………すごいサラサラ、ありがとう」
「乃々華さんの髪の毛は細いですね。
いつも綺麗に保つの大変でしょう」
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