第1章 好きだった
『 触るな 』
耳に入る言葉に、唯の動きは止まる。同時に、三須の動きも止まった。
「高菜!」
「唯っ!!」
聞き覚えのある語彙に、呼ばれた名前に、重たい頭を持ち上げて振り返れば、よく見知った同級生が2人いた。それから廊下に大きな体躯のパンダが1匹。
チッと、小さく舌打ちが聞こえた。
三須は唯から離れて、距離を取る。真希がそれに反応して瞬時に動いたが、横に唯がいるからだろう、無理に追う事はしなかった。
三須も大きく飛び退いて唯から離れていく。
棘は唯に駆け寄り、その身体を庇うように隠して立ち塞がる。
唯の身体がびくりと動く。
「……っ、あ、」
思わずいなくなった番に手を伸ばしてしまった。
「……や、だ」
離れていく。
番が、離れていく。
嫌だ。この人は嫌だ。
嫌なのに。
三須に触れたくて。
三須を今すぐ追い掛けたくて。
苦しい。
「…嫌だ、やだ、せんぱ…ぃ…っ」
ガタガタと震える自分の身体を抱き締めて、俯き崩れ落ちる唯。棘は僅かに振り返り、真希は寄り添うように唯の肩を抱く。
「……唯…?」
真希が名前を呼んでも反応はない。
震える身体に触れた肩を見て、違和感があった。
首元にチョーカーがない。
「噛まれてる」
低い声で呟くと、真希は三須を睨む。
その言葉に動揺して、棘は大きく目を見開いた。