第7章 一緒に
真希に言われてクーポンを見れば使用期限は今週末までとなっている。本当に期限ギリギリだ。
「しゃけぇ」
何でこんな期限ギリギリのクーポンをわざわざ渡されたんだろう。
感情を隠す事なくジト目で真希を見れば、彼女は含みのある笑顔を棘に返した。
「お前にやるよ」
言いながら財布を片付ける。不用心だが、高専内で泥棒が出た話は確かに聞かない。
「…明太子」
一応、ありがとうと礼を言う。
真希には微妙なニュアンスのおにぎり語でも伝わったらしい。受け取って、若干困っているのも理解しているはずだ。
……甘いもの。
たぶんこのクーポンは、もらってもピンと来ない俺よりも甘いものが好きそうな野薔薇か唯に渡した方がーー。
「…………しゃけ。」
成程。と、棘は有り難くクーポンをポケットに仕舞う。
「本当は野薔薇か唯誘って行こうと思ってたんだけど。しゃーなし。今日は棘にやるよ」
真希は棘を振り返り、眼鏡の奥でニヤリと笑う。
ーーいつもながらちょっと嫌な笑みだ。
でも、唯を自然に誘うキッカケが出来て嬉しい。
真希やパンダには、いつも感謝している。
「ツナマヨ」
棘は踵を返す。
木陰にいた真希と、その向こうからのしのしと大きな体躯ながらに軽快に現れたパンダに手を振る。
「明太子」
「よぉー棘、っておい、夕練は…ーー?」
「サボりだとよ」
背後からふたりの声が聞こえた。
振り向いて、ピースして見せてから棘は中庭の方に駆け出した。