第6章 あなたとともに
「ツナマヨ」
棘は一言呟いて、片手をポケットに入れる。
ごそごそと何かを探り当てると、ポケットから引っ張り出して唯に見せた。
そこには、ちょっとくしゃくしゃになった小さな紙がニ枚。見覚えのある白地に青の可愛いらしいロゴが書かれていた。
「……あ!駅前のクレープ屋さん!」
「しゃけ!」
その一枚を唯に手渡す。
棘は小さく印字された使用期限を指差した。日付を見れば、今週末で切れるようだった。
「もらっていいの?」
顔を上げると、目元で笑う棘と目が合った。唯の問いに頷いて答えると、棘は再び地面に書かれた花言葉に目線を向ける。
指先がまた、地面に触れる。
“ あなたとともに ”
その横に更に続きの文字が並んだ。
“ あなたとともに
クレープ食べたい ”
「……っ?!え…ま、…ふふっ」
予想だにしなかった花言葉の続きに、思わず笑い声が漏れる。
「あははっ!何それ」
笑いながら棘を見れば、彼は不満そうに再び地面に文字を書く。
“ 男ひとりじゃ行きにくいでしょ? ”
はぁ、と溜息を吐いてわざとらしく困ったように唯を見た。それにも唯は笑って答える。
「ふふ、確かに。行きにくい」
「しゃけ〜。ツナマヨ?」
首を傾げる棘。
吊り目がちな紫の瞳が唯だけを捉えていた。
唯だけを映したその瞳、その顔に。とくんと胸がひとつ鳴った。
クーポンはひとり一枚使用と書かれている。棘が適当にポケットから出した紙は2枚だけだった。
他のみんなは今、夕練に出ている。
急にその声が大きく、遠くに響いて聞こえた。
期待で胸がいっぱいになる。
唯は頷く。
「…うん。私も、一緒に行きたい」
「しゃけ!」
棘は唯の答えに人差し指と中指をふたつ立ててピースして笑って見せた。