第6章 あなたとともに
棘は唯に何も言わない。
ただいつも、隣に居てくれるだけだった。
隣に居て、いつも唯を見守って、励ましてくれる。
唯は俯いて、花壇の花を眺めた。花には詳しくないが、様々な色を見せる季節の花が水を帯びてキラキラと光り輝いていた。
今目の前には支柱が立てかけられ、張られたネットに蔓を延ばし始めている小さな青葉。
「あさがお…?」
唯が何気なくぽつりと呟くと、棘は手元のノズルを操作してホースの水を止める。
「…………」
唯を振り返り見たその顔が、わざとらしく何か憐れむような複雑な表情を見せた。
「……おかか」
一言で否定する棘。
「…………。え、蔓を伸ばす花なんて朝顔くらいしか浮かばない…」
その言葉に、フッと笑う息遣いがあった。唯は口をへの字にして棘を見る。
笑った彼は、一旦止めたホースを手にその場に座り込んだ。
「ツナ」
俯き、人差し指を砂地の地面に滑らせていく。
唯も隣に座り、その指先を追った。カタカナがいくつか並ぶ。
“ フウセンカズラ ”
書き終えたその指が止まり、唯を見た。
「ふうせんかずら…?」
「しゃけ」
聞いた事はある花の名前だった。蔓を伸ばす植物だったのか。…と、唯が感心していると、棘は頷いて唯の顔を見た。
「ツナツナ」
呼び掛けてまた、地面に目線を映して指先を動かしていく。
“ 花言葉 ”
“ あなたとともに ”
静かに告げられた花言葉。
唯は告げられたその意味に目を見開いた。
顔を上げて伏せた彼の横顔を見る。