第1章 好きだった
「身体が動かないでしょ?拘束。私の術式なんだ」
ふわりとした口調で、三須は何事もなく続ける。
「狗巻棘くんだっけ?呪言師の子。3つも下なのに、私では到底敵わない」
「…………?」
唯は恐怖と彼の術式でその場に動けずにいた。
とげ、くん?
その名前が、やたらと大きく胸を抉った。
何で…?
「だから、彼と番になる前に…。物理的に君を、私のものにしたかった」
三須は唯の肩にかかる髪に触れて、そっと掻き分ける。汗ばむ首筋を、ツツっと指先でなぞった。
ん、と小さく声にならない声が唯の口から漏れた。
「私の、番になって欲しい」
耳元で囁かれれば背筋がぞくぞくするのを感じた。αのフェロモンの香り。蕩けるような、甘い感覚。
身体は本能的にそれを求めようとする。
ーーでも。
嫌だ。
と。
頭の中で拒絶する。
嫌だ、嫌だ。
こんなの、嫌だ。
「……や、…だ……」
本当は、棘くんと、番になりたかった。
でも……。