第1章 好きだった
全てが億劫だった。
意識がふわふわして体は熱を持ち、重くて。目を開ける事すら出来ない。
この感覚に、唯は覚えがあった。発情期〈ヒート〉だ。
よくせいざいを、のまなきゃ…。
初めて発情期〈ヒート〉が来たのが中学の終わり頃。
幸い抑制剤が身体に合うからか、今までαの多い高専でも大きなトラブルにはならなかった。何度も発情〈ヒート〉を抑えながら、ひとりで繰り返しやり過ごす日々。
唯はうっすらと重たい瞼を持ち上げた。
額には汗が浮かび、身体は鉛のように動かない。荒い呼吸で肩を上下させながら何とか身体を起こし、手を伸ばす。
よくせいざい、を…。
見覚えのない部屋。
伸ばしたその手は、無情にも何処に届く事もなく。
大きな手がそれを掴み、ベッドのシーツに押し付けられた。そのままうつ伏せに倒れ込む。
「おはよう、唯」
聞き覚えのある声に、全ての思考回路が停止する。
身体が震えた。頭だけを何とかして動かし振り向けば、うつ伏せの唯に馬乗りになる形で見下ろす男の姿。
恐怖と共に少しずつ、頭がハッキリとして来た。
「…せんぱ…い……?」
3学年上の卒業した三須先輩。
確か廊下で呼び止められて。
それから…、
それから、
どうしたんだっけ?