第6章 あなたとともに
顔を上げると、いつもと変わらない唯に向けられた棘の笑顔。表情が豊かな方ではない彼の、笑うとほんの僅か細くなる紫の瞳。
今の唯には少し苦い。
でも大好きな優しい彼の笑顔。
「何してたの?棘くん、夕練まだ行ってなかったんだね」
揺れるホースから流れ続ける水。
「しゃけ」
棘は慣れた手付きでノズルを切り替え、霧状のシャワーにして近くの花壇に水をやって見せた。花の水やりをしていた、と言う事らしい。
教室で会った時と変わらない黒の制服。
「いつも水やりしてるよね」
「おかか」
花壇に目を向けたまま棘は短く答えた。
「明太子」
たまに、と続けて付け足す。
紫の瞳は振り向く事なく花壇を見ていた。
ふわりと、暖かい風が亜麻色の髪を揺らしていく。
綺麗な横顔だ。口元はネックウォーマーで見えないけれど、笑っているのだろうか。
その、優しい顔が好きだった。