第6章 あなたとともに
「ツナマヨ?」
聞き慣れた声に気付きぼんやりと顔を上げる。
ーーと。
「…………え、ぅあああっっ?!!」
何か冷たいものが足に当たる感覚。
同時に聞こえたのは地面に水が叩きつけられる音。
「な、ちょ、え?!〜〜〜冷たっ!!」
思わず変な声が出てしまった。
……気がする。
それが冷たい水しぶきだと気付くのに、時間は掛からなかった。
高専にいると周りが凄くてつい忘れがちだが、唯もそれなりに運動神経は悪くない。慌てて飛び退き、跳ねるように一歩下がると、少し離れた位置にその人が居た。
「棘く、んっ?!ぇ、何するのっっ!!?」
顔を確認した訳ではないけれど。
聞き慣れた語彙。こんな悪戯をするのは勿論彼しか居ない。
水の出るホースを手に声を殺して笑う同級生。
はぁ、と息を吐いて足元を見れば、少しだけ外れて地面が派手に濡れていた。驚いてかなり冷たく感じたが、実は地面から跳ね返った水がほんの僅かに掛かっただけでそんなに濡れてもいないようだった。
戸惑う唯に、棘は肩を揺らして静かに笑う。
屈託のない笑顔。ただ悪戯が成功して笑う棘は、こう言う時、普通の高校生のような顔をする。
「すじこっ」
驚いて飛び退いた唯を笑いつつ、棘はごめんとおにぎりの具で告げる。その悪戯な顔に、謝る気配は感じられないが。
そんな棘に唯も何だか気が抜けてしまった。
張り詰めていた空気が、一気に解けていく。
「もー!足濡れちゃったじゃん」
唯も笑いながら自分の足を見た。
少しだけかかった水しぶきを、ポケットのハンカチで拭う。
…まぁ、天気も良いし拭かなくてもすぐに乾きそうだけど。
唯は小さく息を吐く。
ーーずっと重かった気分がほんの少しだけ、和らいだ気がした。