第5章 痕跡を
「失礼しました」
唯は頭を下げて医務室の扉を閉める。
大人として頼れる存在である家入の言葉に、幾分か勇気をもらった気がした。
彼女は高専の人間だから。
たぶん、何かあれば三須の事も聞けるだろう。
家入はいつも、自分からは何も告げない。
Ωはαと違い、番関係を作る事で体質すらも変わってしまう。
それはΩにとっては一生で一度。
ーーただひとりの唯の番。
その人が何処にいるのか。
どうしているのか。
今はまだ、それを聞く勇気はない。
何かあったら此処にこようと思うには、家入の言葉は十分だった。
唯は静かに目を閉じる。