第5章 痕跡を
家入は持っていたファイルを机に置いた。コトと音が鳴り、軽く息を吐く。
その口元が小さく笑った。
「知ってるか?風音」
問われた唯はその言葉に顔を上げる。
「…………?」
「この学校、養護教諭はいないんだ。私はどちらかと言えば校医に近いんだけど」
家入は椅子を回転して、首を傾げる唯を見た。
「担任は、…日下部か。男の教師では話せない事もあるだろ?」
その質問に、唯は複雑そうに笑った。それは別段、呪術高専だからと言う話ではないが。
「別に風音だけに言ってる訳じゃないんだ。何もなくても、保健室みたいにふら〜っと話に来てくれても構わない。私も息抜きになるし」
暇な時はいつも大体此処にいるから、と笑う家入の顔は目の下に嵎も出来ていてちょっと不健康そうにも見えるけれど。
優しい保健室の先生に何処か似ていた。
「本業じゃないから勿論居ない時もあるが。数少ない生徒だし、お茶くらいならいつでも出してやるから」
そう言って笑った。
「何でもいいんだ。五条の苦情も一応聞いてやる」
唯はその言葉に、思わず笑みがこぼれた。
苦情…。真希ちゃんたちにに言ったら明日にでもすぐに此処に来そうだ。
…なんて。
そんな唯に、家入は僅かに頷く。
「…それから、番の事とか、Ω性の事とかも。聞きたい事があったら何でも聞いてくれ」
学生を見守る大人として、優しく笑う家入。
唯はその笑顔に、ほっと息を吐く。
「はい。ありがとうございます」