第5章 痕跡を
唯はもらった新しい抑制剤をぎゅっと握って顔を伏せる。カサ、と紙の袋の音がした。
家入はファイルに何かの単語を簡単に書き込んでいく。
「次に発情期〈ヒート〉が来た時はまず、その新しい抑制剤を飲んでみてくれ。元々風音と相性の良かった抑制剤を主とした成分で出来てるから、全く効かないとは思わないんだが……」
頷きながら唯はそれをぼんやりと聞いていた。
自分の事なのに何処か他人事のような気分になる。
更にいくつかの注意を受けたが、後は普段医者から薬をもらうのとなんら変わらない説明だった。
「とりあえず。何かあったらすぐに連絡してくれ」
言って渡されたのは、医療班の誰かしらに繋がるだろう此処の事務的な番号だった。公にされているから、校内では知っている者も少なくはないはずの連絡先。
「ありがとうございます」
これもまた礼を言って受け取る。