第5章 痕跡を
次に来る発情期〈ヒート〉は、恐らく今までとは異なるものになる。
家入が言うまでもなく、それは唯が一番よく理解していた。
番を持って、初めての発情期〈ヒート〉。
俯いた首筋は、チョーカーで隠している。
もう頸を守る事に意味はあまり無い。
ただ、番である事の象徴となる噛跡を、誰かに見られるのが何となく嫌だった。
自分がΩであってαと番になった事を、誰かに見られたくはなかった。
本来ならば、幸せの象徴としての証であったはずの痕跡。
当然だが、元々唯にも発情期〈ヒート〉は3ヶ月に1度あった。体調や月の満ち引きでも変わってくるから、予測は出来ても確実ではない。それは女性の身体の周期にも似ていた。
あまり酷くならなかったのは、早くから自分と相性の良い抑制剤に出会う事が出来ていたから。
症状も少なく、日数も抑える事が出来ていた。
そんな日常があの日全てなくなってしまったんだと。
此処に来ると、改めて実感する。
唯は俯いて、ただ家入の言葉を聞く事しか出来ない。
あの日の発熱はたぶん、変わっていく自身のフェロモンや体質の変化から来るものだと、家入も話していた。
変わってしまった自分の身体。
私がΩとして求めて手を伸ばすのは、棘くんじゃなくて。
たぶん、
……番となったあの人。
そこに彼は居ない。
会いたいとは、今は思えない。
いつだって、私が会いたいのはーー、
会いたかったのは……、