第4章 同級生
棘は深く息を吐き、目を閉じた。
コンコン、とノックしてドアを静かに開くが返事はない。
「いくらー?」
呼び掛けて見ると、シンとしたままの静かな部屋。
窓際にあるベッドの上で唯は布団にくるまっていた。僅かに頭が覗いている。近付けば、規則的に揺れる身体に、小さな寝息。
棘は布団に触れる。
頭まで被った布団を少しズラして整え、唯の顔を見た。
さっき目覚めたばかりの彼女は、また瞼を閉じていた。
それ程、体力が落ちているのだろう。
触れた顔は僅かに熱く、頬が紅潮している気がした。
眠る唯に、少しだけほっとしてしまった自分がいる。
目元は赤く、目尻にはまだ乾き切らない涙が溜まっていた。
棘はその雫を親指でそっと拭う。
スマホを確認するが、真希からの返事はまだない。ドアの向こうに人の気配を探るが、そこはとても静かだった。
濡れた親指。唯に触れた指先が熱い。
棘はネックウォーマーのチャックをゆっくりと開き、その頬に唇を寄せた。
ーーごめん。
俺は、君の望むその人にはもうなれない。
「 好きだよ 」
小さく呟くその言葉は、耳で聞き理解した瞬間に呪いとなる。
決して、彼女に告げてはいけない言葉。
憂太程の呪力は勿論ない。
けれど、言葉を呪いとして紡ぐ棘にとってそれは、十分な強制力を含んだ呪いとなるに足るだろう。
ーー さよなら 。
友だちで良かったんだ。
でも。
ただ、
あの人のように失いたくはなくて。
それだけで。
それだけなのに。
後悔が、棘の胸に重く響いた。