• テキストサイズ

いつかふたりで 【呪術廻戦/狗】

第4章 同級生




棘は深く息を吐き、目を閉じた。
コンコン、とノックしてドアを静かに開くが返事はない。

「いくらー?」

呼び掛けて見ると、シンとしたままの静かな部屋。

窓際にあるベッドの上で唯は布団にくるまっていた。僅かに頭が覗いている。近付けば、規則的に揺れる身体に、小さな寝息。

棘は布団に触れる。
頭まで被った布団を少しズラして整え、唯の顔を見た。

さっき目覚めたばかりの彼女は、また瞼を閉じていた。
それ程、体力が落ちているのだろう。


触れた顔は僅かに熱く、頬が紅潮している気がした。



眠る唯に、少しだけほっとしてしまった自分がいる。


目元は赤く、目尻にはまだ乾き切らない涙が溜まっていた。

棘はその雫を親指でそっと拭う。


スマホを確認するが、真希からの返事はまだない。ドアの向こうに人の気配を探るが、そこはとても静かだった。




濡れた親指。唯に触れた指先が熱い。
棘はネックウォーマーのチャックをゆっくりと開き、その頬に唇を寄せた。

ーーごめん。

俺は、君の望むその人にはもうなれない。




「 好きだよ 」




小さく呟くその言葉は、耳で聞き理解した瞬間に呪いとなる。

決して、彼女に告げてはいけない言葉。



憂太程の呪力は勿論ない。
けれど、言葉を呪いとして紡ぐ棘にとってそれは、十分な強制力を含んだ呪いとなるに足るだろう。


ーー さよなら 。




友だちで良かったんだ。

でも。

ただ、
あの人のように失いたくはなくて。


それだけで。

それだけなのに。




後悔が、棘の胸に重く響いた。




/ 70ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp